恋愛マニュアル本を読んで号泣した
デート、
それは数々の恋愛をしてきた人からすればただ男女で食事するだけの楽しい日常の一コマにすぎない。
だが俺にとっては完全なる試練であった。
いよいよだな・・・
心に鎧兜をかぶる。今から行くところは戦場だ。
電車の中では脚が震え帰りたいと思った。
なんでこんなことになったのだろう。
デートを目前にしてこれまでの俺の覚悟はプレッシャーで跡形もなく押し潰されていた。
俺の居場所は、ずっと410号室の6畳一間だった。
そこではパソコンをつければすぐに可愛い女の子に会えた。
黒髪の子から金髪の子もロングの子からベリーショートの子も外国人だろうと誰にだって会えた。怖がらなくて良かったしどんな格好で過ごしても良くて本当に居心地がよかった。(なにより気持ち良かった)
その温室からなんで出たのか。この心労に見合う何かを掴めるのか?
吐き気で何度も何度もえづいた。
待ち合わせ場所の新宿東口改札前で俺は明らかに挙動不審だったはずだ。
深呼吸し俺は目を閉じた。雑踏の音が俺に生を感じさせた。
これは現実だ。
目を開け改札に視線を戻したとき、そこに天使がいた。
確信した。
俺にとって世界はこの日のために作られていた。
改札が、駅が、人が、街が輝き出した。
世界がこんなに美しいとは知らなかった。
彼女は完成されていた。
彼女の名をミミミちゃんとする。
結論から言うとミミミちゃんとのデートは凄まじく上手くいったらしい。
デート後半ではミミミちゃんの方からカラオケに誘われた。
この日のデートをミミミちゃんはめちゃくちゃ楽しかったと言っていた。
帰り道、勝どきをあげにあげウイニングランとばかりに、友人へ反省会と称した自慢の電話をかけた。
しかし、ここで衝撃的な事実を指摘される。
ミミミちゃんは俺に質問をしていなかったのだ。
特に俺は極めて特殊な職業なのだが、それに関しほとんど質問されなかったことに気付く。デートという異性を見極めんとする場で、極僅かしか質問をされなかった。
極単純な推測が立った。
ミミミちゃんは俺に興味が無かったのではないか?
死にたくなった。
フラフラになりながら何度も毒づき神を呪った。
どうしてこのタイミングでミミミちゃんと会ってしまったんだろう。
例えば、これが数年後だったら?
成長した後会っていたらミミミちゃんは俺に惚れたかもしれない。
どうして最初に天使と出会ってしまったんだ・・・
・恋愛マニュアル本「LOVE理論」
こうして己の未熟さを痛感した俺は、翌日、新宿紀伊国屋書店へ向かった。
次に俺は池袋サンシャイン水族館に居た。
気が紛れるならどこでも良かった。
ペンギンを虚ろに眺めた後、ベンチで一人、俺は本を開いた。
LOVE理論、名著とされている恋愛マニュアル本である。
この本は恋愛におけるイロハをいくつもの理論に分け解説している本でその中にデビュー理論と言うのがある。
デビュー理論とは、簡単に言うと、俺は変わると周りに宣言することで背水の陣を敷き、さらに、お前何急に色気づいてんの?と出る杭を打つ輩へ先手を打つことで恋愛デビューしやすくなるという理論である。
デビュー理論では、宣言としてある文面を周囲の人間に送ることが推奨されている。
「モテる」とは「変わる」ということ。
ただ本を読んだだけでは今までと変わらない。
俺は変わる。変わるには実行する。
デビュー理論を読んだ俺はすぐさまLINEのタイムラインに投稿した。
これにより俺は同僚、友人、親族に変わると宣言することに成功したのである。
なお、このときは親と妹から「あんた、どうしたの」と電話があった。
さらに友人から電話で
ミミミちゃんに見られたら気持ち悪がられて終わるぞ!!!!!
と緊急の電話があったのだが、当然既に手は打っている。
LINEのタイムラインは公開範囲を選べるのだ。
ミミミちゃんにだけは非公開に設定していた。
二時間後、俺のスマホが鳴った。
「たまたま、タイムライン見たんだけど何があったの今日?!」
ミミミちゃんからのLINEだった。
どうやら非公開設定が上手くいってなかったようだ。
しかしである、LINEの投稿はミミミちゃんにはかなりウケたらしい。
このLINEをきっかけに俺とミミミちゃんは急速に接近することとなる。
・あとがきを読んで
この日、俺はLOVE理論を読破した。
読めばわかるがこの本はマニュアル本でありながら下ネタ満載の抱腹絶倒もののかなり笑える本でもある。ゆえに名著とされているのだ。
俺も終始笑っていた。爆笑しっぱなしだった。
しかしあとがきで毛色が変わる。
俺の人生を揺さぶった名文なのでぜひとも紹介させてほしい。
以下、LOVE理論のあとがきを転載する
気が付くと俺も泣いていた。嗚咽し号泣していた。
著者の気持ちがよくわかったから。共感したから。
なにより、
もうすぐ俺も救われるんだ
と思えたから。
このとき初めて俺はコンプレックスがあった事を自覚する。
女の子と会話ができない。恋愛をろくにしたことがなく、誰にも好きになって貰えたことがない。
俺は自分が単にそういう人種で、一生そのままだと思っていた。
周りが恋愛しているのに自分がしていないことなど気にかけてもいなかった。
ただの強がりだったんだ。
この涙が語っている。俺は無意識に耐えていたんだ。
そして、もうすぐ俺は救われる。
このあとがきのように、誰かが好きになってくれる。
ミミミちゃんと結ばれるって確信した。
彼女になったミミミちゃんとのデートを想像して泣いた。
こういうのを運命って言うのかと感動した。
ちなみにネタバレすると
ミミミちゃんにはフラれる!!!!!!!
手すら繋ぐことはない!!!!!